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モノサシを変えて眺める「株価」の本当の実力

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円安になると日経平均が上昇するという相関関係は、日本人にとっては感覚的に理解しやすいものだと思います。

なぜ、円安になると日経平均が上昇するのか?という質問に対して、多くの人が次のように答えると思います。

『輸出企業が多い日本にとって、円安は日本企業の期待収益を上げるので株価が上昇する』

この理解は将来の企業収益(=損益計算書)に基づく解釈であり、正しいです。
しかし、『通貨安と株高』の組み合わせは、企業の資産(=貸借対照表)に基づいて、次のように考えることもできます。

『ある日本企業Aが1艇1億円のヨットを100艇、資産として保有している。そして、為替が1ドル100円のときに、この企業の時価総額が100億円であるとする。』

これは日本の投資家も、海外の投資家も企業Aには1艇1億円(=1台100万ドル)のヨットが100艇分、資産としてあるから、時価総額は100億円(=1億ドル)であると評価しているわけです。

次に、為替が一夜にして1ドル100円から1ドル110円の円安になったと仮定します。
このとき企業Aの時価総額は100億円のままでしょうか?

まず、考えなければいけないのは、為替が円安になったからといってもヨットの本源的な価値が変わる訳ではありません。
つまり、円安になったとしても、海外の投資家から見れば、やはり企業Aは1艇100万ドルのヨットを100艇保有している企業に変わりはありません。

もし、この企業Aの時価総額が100億円のままだとすると、海外の投資家から見た企業Aは1億ドル(100万ドル×100艇)のヨットを保有しているのに、時価総額は0.9億ドル(100億円÷110円)で評価されていることになります。

そうすると、海外の投資家の目には、この日本企業Aの株式は10%近く割安に放置されていると映るので、『企業Aの株を買おう』となるわけです。

では、この外国人投資家は、どこまで日本企業Aの株を買うのでしょうか?

議論を単純にするために、企業Aの売り上げや利益を排除して考えれば、理論的には時価総額が1億ドル(110億円)になるまで買っても損はしないはずです。

このようなケースでは、日本人からすると、企業Aの時価総額が100億円から110億円に10%も上昇したように見えますが、これは企業Aの将来性が明るくなったからではなく、単純に為替によって株価が調整されただけなのです。

このように、通貨安になると株価が上昇するというのは、『輸出企業が多い』という企業収益の将来性に基づいた理由以外にも、『保有している資産の”評価”が為替で調整される』という理由もあるのです。

さて、皆さもご存知の通り、米国の株式市場は2020年3月に底を打ってからほぼ一本調整で上昇しており、史上最高値まで残り2%となっています。

これは米国企業がコロナショックから立ち直り、業績の見通しが劇的に改善しているからなのでしょうか?

それを調べるために、初めに基本的な部分を説明したいと思います。

まず、S&P500は米国の株価指数ですので、当然、ドルで評価されています。
一方で、S&P500が3月から反発し、史上最高値に迫る中、為替市場では『ドル安』も同時に起きています。

つまり、米国の株価が上昇しているのは、先ほどの企業Aと同じように、業績見通しが改善しているからではなく、単に通貨安で株価が嵩上げされているだけなのかもしれません。

では、ドルは何に対して売られているのでしょうか?
今、ドル安の相対として最も象徴的な通貨は『金』です。

『金』はコモディティですが、『貨幣』としての側面も持っています。
また、『金』を貨幣として考えると、『金』には発行母体の中央銀行も無ければ、金利もありません。

ドル安と金価格上昇の背景については、別の記事で説明しているので、よければご覧ください。

では、S&P500からドル安による嵩上げ分を排除するために、株価を『ドル』ではなく『金』というモノサシで測ると、どのようなチャートになるのでしょうか。

現在、S&P500は3320ドルですが、これは一つのS&P500を買うのに必要なお金が『3320ドル』と捉えることができます。
S&P500を『金』というモノサシで測るためには『S&P500を一つ買うのに”金”は何オンス必要か?』ということが、わかれば良いことになります。

これは『S&P500指数(ドル)』を『1オンスあたりの金価格(ドル)』で割ることで計算できます。
それを示したのが、以下のチャートです。

これは単純な割り算で作ったチャートですが、このチャートは非常に多くの示唆に富んでいます。

まず、『金』というモノサシでS&P500を見ると、実は株価はあまり上昇していないことがわかります。
3月の底値からは13%上昇していますが、2月の高値からは25%も下落したままです。

先ほどの企業Aの例でも説明した通り、通貨安になると、その国の通貨建てで見た株価が上昇するのは自然なことです。

しかし、このように『金』という金融緩和や財政の影響を受けない絶対的な『貨幣』で株価を眺めると、本当の実力が見えてきます。

実は、3月からドル建てでみた株価が一本調子で回復し、史上最高値に近づいているのは『企業の業績見通しが劇的に改善したから』という理由よりも、『インフレ(通貨安)でドル建ての株価が為替で調整されたから』という理由の方が大きいと言えるわけです。

本当は、『ユーロ』や『円』を使ってS&P500を見るのも面白いのですが、『ユーロ』も『円』も同様に金融緩和と財政刺激を行なっているので、今の状況ではモノサシとして適さないと考え、今回は『金』で説明しています。

また、世の中には『金』というモノサシの他にもPER、PBR、GDP、無リスク利回り等、株価を測るモノサシは沢山あります。

しかし、今のマーケットで一番注目されているのは『ドル安』であり、その観点で株価を眺めると、どのように見えるのかを説明したかったので、今回の記事を書くことにしました。

このチャートを見て、『株価はまだ割安に放置されている』と解釈するのか、『株価はドル安で嵩上げされただけで、もっと落ちるはずだ』と解釈するのは人それぞれです。

ただ、ドルで運用する投資家や富裕層にとって、足元で進んでいるドル安のスピードは、株を買うことでヘッジできるインフレリスク以上に、早いスピードになってきているというのは確かな気がします。

(おまけ)
日経平均株価を金価格で調整すると次のようなチャートになります。
チャートの意味はS&P500の例と同じく、一つの日経平均株価を買うのに必要な『金』の量(オンス)です。

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