日本では『Go To トラベル』というギャグみたいなキャンペーンが検討されているそうですが、皆様もご存知の通り、グローバルにみるとまだまだ旅行自粛ムードです。
一方、アジアでは観光産業が、その国を支える根幹事業となっている国も少なくありません。日本でも観光収支が2014年から黒字化し、経常収支を支える一つの柱になってきました。
実際にアジア各国の観光収支と、観光収支が経常収支の大きさに占める割合を実際に見てみましょう。
このグラフを見ると、一部のアジアの国では日本とは比べものにならないほど観光収支と経常収支が密接に結びついている国があるとわかります。
それが『中国』と『タイ』です。
中国では、年間の観光収支が$230bln(bln=10億ドル)もの赤字になっています。そして、この巨額の観光収支の赤字が、経常収支にマイナス240%もの寄与をもたらしているのです。
一方、タイの観光収支は$54blnの黒字です。これはタイの人口が7000万人程度ということを考えると非常に大きな数字と言えます。
そして、タイの観光収支は、経常収支にプラス200%も寄与しています。
明らかに、この二つの国の観光収支は、それぞれの国にとって無視できないほどに大きく、コロナ禍で観光需要が激減する中、今後の為替市場でもプレッシャーがかかると考えられます。
今日はこの二カ国における観光収支の影響が、経常収支に対してどれほどインパクトがあるのかをもう少し分析していきたいと思います。
中国の経常収支にはプラスの材料
まず、中国の経常収支と観光収支の推移を見てみます。
データは四半期毎の推移です。
経常収支とは簡単に言うと、モノ・サービス・配当などのお金の流れを示した統計データです。経常黒字であれば海外に支払うお金よりも、海外から受けとるお金の方が多いことを意味しています。
ですので、一般的には経常黒字国の通貨は高くなりやすい傾向にあります。
まず、上のグラフを見ると、意外と思われるかもしれませんが、中国の経常収支は必ずしも黒字ではありません。実は赤字になることもあるくらい均衡が取れているのです。なぜ、貿易黒字の中国が、経常収支で見るとトントンなのか。
上のグラフを見ると、貿易収支の黒字を、観光収支が食いつぶしている事がわかります。ところで、先日、『中国のファンダメンタルズをチェック』という記事の中で、中国の製造業PMIがV字回復していると書きました。
中国の製造業回復の背景には、①早い段階でサプライチェーンが回復した為、他国からの注文が流れてきている、②マスク・医療器具などのコロナ需要が急増している、といったことが挙げられます。
そしてこのことが意味するのは、輸出が意外に落ち込まない中で、観光収支の赤字が大幅に減少する可能性です。
これは中国の経常収支を安定化させ、これまで旅行需要で発生していた『人民元売り』を減退させると思われます。
タイの観光収支は経常黒字の大半を担う
上のグラフは四半期毎のタイの経常収支と、観光収支の金額を表したものです。
このグラフを見ると、タイが観光収支に支えられた経常黒字国であることは一目瞭然です。
タイの人口は約7000万人ですが、年間で訪れる観光客は約3800万人と実に人口の54%もの人が毎年、タイに訪れていてます。
さて、そんなタイですが、今後、マーケットが目にする第2Q以降の観光収入は大きく落ち込むことが予想されます。
特にタイの観光収入は第3Qから増えて行くというのが近年の傾向です。
コロナがなければこれから、多くの観光客がタイを訪れ、お金を落としていく予定でした。(下のグラフは観光収支の過去10年平均です)
しかし、コロナによる世界的な旅行自粛ムードの中、タイの観光収入は激減することが予想されます。
これは、本来入ってくるはずだった『タイバーツ買い』の為替フローが入らなくなることを意味します。
『タイバーツ買い』の減少と、『人民元売り』の減少は、少なくとも観光収支の側面からは『人民元売り/タイバーツ買い』の減少へと繋がります。
言い換えると、マーケットの『人民元買い』と『タイーバーツ売り』の圧力には弱くなるということです。
現在、『人民元/タイバーツ』の為替レートの推移は以下のようになっています。
7月以降、人民元に対してタイバーツが弱くなっており、徐々に為替市場でも観光収支の影響が意識され始めているのかもしれません。